2012年11月8日木曜日

聖地(カオサン・ロード、第14日目)

国際急行列車の中で知り合った旅仲間・将悟くんとタイの首都バンコクに辿り着いたのは、昼1時ごろである。
バンコクに辿り着いた二人は、取るものも取りあえず、トゥクトゥクに乗り込むと、バンコク市内にあるカオサン・ロードへと向かった。カオサン・ロードといえば、東南アジアを旅する旅人にとっては聖地であり、多くの旅人がここからカンボジアやラオス、ミャンマーといった国々へと旅立っていく出発点でもある。旅をはじめる前から、その名声は私もよく耳にしており、是非私もそれに倣いたいと考えていたのであった。

昼のカオサン・ロードが、照り付ける白い日差しの中、私と将悟くんを迎え入れた。
(これが、噂のカオサン・ロードか…)
人ごみ、人ごみ、人ごみ。
人ごみが絶えることなく、ずっと続いている。道の至る所に、食事やジュース、Tシャツや偽造証明書などを売りさばく露天が軒を連ね、それを縫うように人やバイクが蠢き、左右のあちこちからクラブ・ミュージックが聞こえてくるさまは、完全に無法地帯である。その縺れきった人ごみの中で、ただカオサン・ロードの道だけが、混沌を均すただ一本の秩序ででもあるかのように、遥か彼方に向かってまっすぐ貫かれている。

その、あまりにも楽天的な雰囲気に押されながら、とりあえず食事を取ろうと将悟くんを誘って、レストランに入り、食事を取った。将悟くんはM大学の学園祭の期間中、学園祭には一切ノータッチでこちらに旅をしに来たらしい。
大学生のうちに旅をしておくのは良いことだと思う。フィリピンに留学していた時も、大学を休学したり、少ない路銀を何とかやりくりしてでも世界を見てやろう、あるいはNGOの活動に加わって、世界をよくしよう等々と考える気骨のある仲間たちが大勢いて、羨ましく思ったり、自分が恥ずかしく思えたりした。自分が大学生だった頃はそんなことは考えたこともなかったし、ただ漫然と時間を潰し、ストレートに卒業して適当な会社に入ることしか頭になかった。

将悟くんと別れてカオサン・ロード沿いに投宿し、夜になって再び外に出た。夜になっても変わらずカオサン・ロードは賑やかで、どこでもかしこでも欧米人が酒を飲み、歌い踊って人生を謳歌している。
この場所に、世界各地からありとあらゆる人々が集まり、そして一時の間盃を交わして、また何処ともなく己の目的に向かって立ち去っていく。あたかも、色々な色の糸が絡み合い、変わった色目の布が出来上がるみたいに。
自分もまたその一本の糸になり、カオサン・ロードの歴史に堆積する地層の1ミリになったのだということに、旅人の一人として晴れて認められたような気がして、どこか不思議な高揚感が芽生えた。
こんなところは他にあるまい。カオサン・ロード、そこはまさに、旅人の聖地である。

<<カオサン・ロードの人々>>
  • 欧米人
とにかく一番多い。朝から次の日の朝まで酒を飲みつづけ、店の中でも路上でも、とにかく歌ったり踊ったりと羽目を外しているのは彼ら。  
「ちょっと噂のカオサン通りを見に来ました」という一般人風の人も居れば、ヒッピーの残党軍のような出で立ちの人々もいる。オーガニックという言葉を肩から提げて歩いているような東洋かぶれの服装の人に、全身に施された刺青を見せつけながら歩くオバケのような姉さん、白い仮面を被ってペンキをぶっ掛けた作業服のような服を着て、終始無言でギターを引きつづける男などさまざま。
  • 東洋人
一番多いのは日本人風の人。次に韓国人風と中国人風の人が多い。数は多いが雰囲気に押されている印象。最後に、現地の学生など若者(売り子は除く)。日本人風の女性は西洋人と同じでオーガニック風の服装が目に付く(絶対に自分の国では着なさそうな服を着て颯爽と歩く)。対して男性はいかにもバックパッカーのお上りさんというイメージ。韓国人風の男はサイズの小さいピチピチしたノースリーブのTシャツを着てウロウロしている(兵役の影響か?)。中国人風はよそ行きの観光客っぽい。
  • 売り子たち
色々な店の売り子。地元風の人々がほとんど。パッタイ(麺料理)売り、ケバブ売り、カットフルーツ売り、ゲテモノ売り(昆虫食)、Tシャツ売り、マッサージ屋やバーの店員、おもちゃ売り(夜になると、タケコプターのような光って空をとぶおもちゃを一晩中空に打ち上げている)、アクセサリー売り、スーツ?売り(この人のメインターゲットは西洋人の男。東洋人には声をかけない)、民芸品売り(民族衣装風の服を着て、手元の楽器を鳴らしながらゆっくり歩く色の黒いおばあさん)、偽造証明書(国際学生証、プレスカード等)売り、等など。
  • 仙人
カオサン在住数十年という感じの老人。何人か分からないほど灰色に枯れて、沈没というより完全にカオサンの歴史に埋没したような雰囲気の人もいた。
  • あまり見ない人たち
インド人風、アフリカ人風(除く、アフリカ系アメリカ人風)で遊びにきたような雰囲気の人は見ない。ただしインド人の店はいくつかあり、インド人風の店員がいる。中東風の人も少ない。
  • 動物
猫と犬が少し。

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