世界一周をする一ヶ月ほど前まで、語学を学ぶためにフィリピンに留学していた。
留学先はマニラでもセブでもなかった。フィリピン中部のヴィサヤ諸島、ネグロス島の西に位置する、バコロド市である。
バコロドの人口は40万ほどで、特にこれと言った大観光地のようなものはない、一地方都市である。
しかし、それが故にバコロドは治安がよく、人々はフレンドリーで穏やかだった。日本人も少なく、日本人だけで常に固まるような状態になりにくく、勉強に集中しやすい。それが、バコロドに行く事に決めた理由で、実際にバコロドに行ったのは正しかったと思う。
今、Across The Universeという人気のブログをたちあげて世界一周中の市川くんもまた、自分と同じころに同じ学校に行っていた仲間である。
今回、そんなバコロドにわざわざ帰国後一ヶ月で出戻りを果たしたのは、毎年10月の中頃に、マスカラフェスティバルというフィリピン最大級のお祭りが開かれるからだった。
街中の至るところでダンスコンテストやイベントが開かれ、パレードや出店も数えきれないほどであるという。留学していた時、これを見れずに帰ったのが、目下の心残りであった。
とはいえ、わざわざそのために、一度帰った場所にまた戻るべきかどうか悩んだが、全く未知の土地に向かう前に、海外で知っている場所を一度訪問し、調子を整えてから向かいたいという思いがあった。
何より、その話をすると母はこう言った。
「行ける時に行っておいたほうがいい。そうしないと後悔するから」と。
全くもってその通りである。来年の今頃、バコロドに行けるかどうかなど、誰にも分からないのだ。
そうしてバコロドに再びやって来ると、街はすっかりお祭りムードに充たされ、主要なスポットはまさしく人ごみに埋め尽くされていた。まるで、街全てがひとつのアトラクションになったかのようだった。
かつての仲間たちと再会し、食事を交わし、旧交(というほど昔でもないけれど)を温め、ともにフェスティバルを愉しむ。
そうしているうちに、少しずつ調子が戻ってくるような感じがした。函館を出る直前は、自分のことだというのに、何だか世界一周というものが遠い場所にあるかのような気さえしていた。
それが、バコロドに戻ってきて、雑然とした熱気の中に迷い込んだだけで、気持ちが留学中の時のように上向いてきたことを確かに感じた。思い通りの結果だった。
バコロド滞在の最終夜に、大ショッピングモール・SMモールのそばに設置された移動遊園地に友人たちとともに出かけた。
「ヤバいですよ」としきりに乗るように勧められた空中ブランコに乗りたいと思っていたのだ。
空中ブランコに乗り込むと、ブランコは恐るべきスピードで回り始めた。遠心力で遥か彼方に吹き飛ばされそうになりながら夜空を見上げると、美しい月が浮かんでいた。
その月を眺めていると、いよいよ明日からは、本当の旅が始まるのだという思いが、心のなかから湧きあがるのだった…。
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